君は窓枠に座っていた。
綺麗な芝生の遥か上空に向けて、足をぶらぶらさせながら。
そんな危うい姿勢のまま、部屋の中で所在なさげに立ちすくんでいた僕の方を楽しげに振
り向くものだから、落ちてしまわないか心配になった。
そうして、僕が慌てるのを見て君はさもおかしそうに声をたてて笑った。
落ちないよ、落ちるわけないよと。
それを聞いた僕が思わず脱力してへたりこむのを見届けてから君は僕に聞こえないように
そっと呟く。
まだ、だけどね。
飛行症候群
君……いや、彼女と出会ったのはありふれた建物のありふれた箱の中だった。僕らは、教
室という狭苦しい過密地帯に強制的に分別されて押し込まれていた。
人混みに埋もれてしまうのが嫌で、僕はいつも始発の一本後の電車で学校に通っていた。
その時間帯が作り出す、無人の静謐な空間が好きだった。そんな僕の至福の一時にそ
の日は異物が紛れ込んだ。それが彼女だった。
学校指定の、見るからに野暮ったいセーラーは少しの乱れもなく、
他の色が内包されているような不思議な光沢がある黒くて長い髪は無造作に流され、時折
吹く風の強弱に合わせて踊っていた。
そうやって古くからずっとそうであったかのよう完成されて、彼女はその時も窓枠に腰を
おろしていた。
それはまるでひとつの、人類が作りえない自然による芸術品のようだった。
初めまして、かな。
やっぱりその時も同じように窓枠を掴んで僕の方を振り返っていたのだろう、彼女の顔は
日の光を浴びてよく見えなかったけれど、その他の人よりも少し色が薄い唇がそう紡
いだのは分かった。分かったと思った。
あなたは誰?
悪戯っぽく、彼女は僕に対して囁いた。そう言いたかったのでしょう、とその瞳は楽しげ
だった。
落ちる、落ちてゆくビジョン。
彼女はその長い髪を弛ませながらゆっくりゆっくり舞い降りてゆく。
あれ、そんな筈はない。だって、彼女はまだここに、僕の見えるところにいる。
もし、そこで彼女が落ちて……いや、飛んでいってしまったというならば今目の前にいる
彼女は誰だろう?
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アトガキ
最初は、彼女は誰なのかとか、“僕”とはどういうやつなのかとかもう少しだけ言及するつもりでした。
しかし、これ以上書く気が失せてしまったと言いますか、何だかここでやめておけと
天のお声が聞こえたので此処で一旦切ることにしました。
そのうち気が向いたら続ける予定です。気長にお付き合い下さいませ。
ここまで読んで下さり、有難うございました。